大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(特わ)2470号 判決

本店所在地

東京都練馬区谷原五丁目二八番二七号

美東建設株式会社

(代表者代表取締役 北條康之)

本籍

東京都練馬区石神井町二丁目三四番

住居

同区石神町一丁目三四番三五号

無職(元会社役員)

齋藤美江

昭和一一年六月六日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官八田健一、弁護人松浦安人各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人美東建設株式会社を罰金一八〇〇万円に、被告人齋藤美江を懲役一〇月に処する。

被告人齋藤美江に対し、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人美東建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都練馬区谷原五丁目二八番二七号に本店を置き、土木建築工事等を目的とする資本金三〇〇〇万円(平成三年五月二一日以前は二〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人齋藤美江(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括していた。被告人は、被告会社の業務に関し、その法人税を免れようと考え、完成工事高を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億〇〇九九万三四八七円であった(別紙1(一)修正損益計算書及び1(二)修正完成工事原価報告書参照)のに、平成二年一一月二八日、東京都練馬区栄町二三番七号の所轄の練馬東税務署において、税務署長に対し、その所得金額が七四二四万一三三九円で、これに対する法人税額が二九一五万八三〇〇円であるという虚偽の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七九二九万三四〇〇円と右申告税額との差額五〇一三万五一〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れた。

第二  同年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八八四四万六五七九円であった(別紙2(一)修正損益計算書及び2(二)修正完成工事原価報告書参照)のに、平成三年一一月三〇日、前記練馬東税務署において、税務署長に対し、その所得金額が三一七〇万六九〇八円で、これに対する法人税額が一〇八二万九八〇〇円であるという虚偽の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三二一〇万七三〇〇円と右申告税額との差額二一二七万七五〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通

一  上山孝幸及び今井敬文の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の完成工事高調査書、賃金給料(工事原価)調査書、福利厚生費等(工事原価)調査書、雑費(工事原価)調査書、給与手当調査書、福利厚生費調査書、交際費調査書、車両費調査書、支払手数料調査書、受取利息調査書、事業税認定損調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、交際費等の損金不算入調査書及び賞与引当金繰入限度超過額調査書

一  検察事務官作成の搜査報告書二通

一  登記官作成の商業登記簿謄本二通

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の旅費交通費(工事原価)調査書、安全会費(工事原価)調査書及び旅費交通費調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成六年押第一六九五号の1)

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同号の2)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は法人税法一五九条一項(判示第一の罪の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項(判示第一の罪の罰金刑の寡額については、前と同じ)により処罰すべきところ、情状によりいずれも同法一五九条二項を適用し、以上は前記の併合罪であるから、刑法四八条二項により各罪について定めた罰金を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一八〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、土木建築工事等を営む被告会社の代表者であった被告人が、被告会社の所得を秘匿して、二年度にわたり、合計約七〇〇〇万円の法人税を脱税したという事案である。本件の脱税額は右のとおり多額であり、ほ脱率も二期通算で六四・一パーセントと高率に達している。本件犯行の動機は、いわゆるバブル期で業績が好調なうちに被告会社の経営が悪化したときに備えて簿外資産を蓄積するためと得意先に対する簿外交際費を捻出するためであるが、このような目的は、何ら酌むべきものとはいえない。本件犯行の態様も、簿外口座に得意先からの売上金を入金させて、完成工事高を除外し、退職した従業員の氏名を利用して賃金給料等の人件費の架空水増計上をするなどというものであり、計画的であり巧妙である。被告人は、被告会社のワンマン経営者としての地位を悪用して自ら率先して脱税を画策し、部下に不正行為を指示して、主体的に本件犯行を敢行しており、悪質である。しかも、被告人は、これらの不正手段によって蓄積した簿外資産を、簿外交際費として使用したほか、被告人個人名義あるいは被告人の家族名義の預貯金、ゴルフ会員権で留保しており、この点でも犯情はよくない。このように、本件は、到底軽視できる事案ではなく、被告人の刑事責任は重い。

しかしながら、被告会社は、国税当局の調査により本件が発覚した後修正申告をした上、本税については全額納付済みであり、重加算税及び延滞税についても近々完納の見込みである。更に、被告人は、本件を契機に被告会社の代表取締役及び取締役を辞任し、反省の情も認められる。他方、被告会社は、代表者の更迭を始めとして、これまでのワンマンによる社内体制を改め、本件のような過ちを二度と犯さないよう経理体制の充実等の再発防止策を講じている。加えて、被告人は前科前歴がなく、これまで被告会社の代表取締役として、その事業の発展に努め、真面目に働いてきたものである。

以上の事情を総合考慮して、被告人に対しては主文の懲役刑を科するとともに、今回に限りその執行を猶予し、被告会社に対しては主文の罰金刑を科するのが相当である判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 朝山芳史)

別紙1(一) 修正損益計算書

別紙1(二) 修正完成工事原価報告書

別紙2(一) 修正損益計算書

別紙2(二) 修正完成工事原価報告書

別紙3 ほ脱税額計算書

別紙4 ほ脱税額計算書

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例